不眠症(睡眠障害)の症状・診断・治療
- WeClinic院長ベトリッジ クリス先生精神科医
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概要
不眠症とは、きちんと夜間に十分な睡眠が取れないことで、日常生活や心身に何らかの支障をきたした状態をいいます。
「長時間寝れているから大丈夫」「週末に寝溜めしている」など、睡眠時間のみでは判断できず、夜間に何かしら睡眠を妨げる原因があり、日中の活動に悪影響を及ぼしていているかどうかが重要です。
受診をするタイミングは不眠症状を自覚して、いつも通りの生活が送れなくなったときです。
疫学
厚生労働省の調査によると、国民の5人に1人が「睡眠で休養が取れていない」「何らかの不眠がある」と不眠で悩んでいることが明らかにされています。
ライフスタイルの多様化や夜勤などによる睡眠リズムの乱れ、過度なストレスに晒されうる20~30代から不眠症状が出現し、40~50代で急激に割合が増加します。60歳以上の方では、約3人のうち1人が睡眠に不満を感じています。
多くのひとが不眠で悩んでおり、国民病といえるほど身近な病気であるといえます。
不眠のタイプ
不眠には大きく分けて4つのタイプが存在します。
入眠困難
もともと寝れていたのに、以前と比べて寝つきが悪くなることです。
4つのタイプのなかで最も訴えの多い症状になります。
寝る直前までテレビやスマートフォンを閲覧していたり、床に入ってからも考え事をしていたりすると、頭が冴えてしまい寝付けないことがあります。
ベッドに入ってから30分から1時間で入眠できると苦痛を感じませんが、1-2時間以上寝付けないと翌日への影響を感じやすいこともあり、不眠を自覚する方が多いです。
中途覚醒
いったん寝ることはできるけれども、2-3時間すると途中で何度も目覚めてしまう状態です。
加齢とともに眠りは浅くなりますが、入眠困難と一緒に悩んでいる若者も増えています。
不安を抱えたり緊張状態が続いていると眠りが浅くなり、続けて寝ることができず、寝れていないと感じるようになります。
一度ならまだしも、何度も起きてしまうこともあり、また再び寝付くことが困難になると十分な睡眠が確保できず、日中の支障が現れます。
早朝覚醒
普段よりも朝早く目覚めて再入眠できないことをいいます。
年齢を重ねると体内時計のリズムがずれやすくなりますが、背景にうつ病などの精神疾患が隠れている可能性があります。
早朝覚醒はうつ病の不眠症状として知られており、「寝れないだけ」と簡単に片付けず、きちんと診察を受ける必要があります。
熟眠障害
たっぷり睡眠は取れているはずなのに、あまり寝た感じがしないことを指します。
前述の3つの不眠症状がみられると寝た実感がなく、すっきりと起きることができない状態であり、眠った気がしないように感じます。
日中の活動で程よく疲れたときは、短時間の睡眠でも良質な睡眠を得ることができます。熟睡困難であると、どんなに寝ても睡眠の質が低下しているので、起床時に疲労が回復していないと感じます。
受診するタイミング
以下のような場合、一人で悩みを抱え込まず、医師などの専門家に相談することで早めに元の生活に戻ることが期待できます。
- 不眠症の4つのタイプ(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟睡困難)のうち、いずれかを自覚したとき
- 日中の眠気や集中力の低下、ミスが増える、イライラする、やる気が湧かないなど、仕事や学業などの日常生活に支障をきたしたとき
- 運転中に事故を起こしそうになってヒヤリとした経験や電車での移動中に寝過ごしてしまったとき
原因
からだの病気
以下のように、身体疾患による不快な症状が眠りを妨げることがあります。
- 息苦しさ
- 咳
- いびき
- 夜間頻尿
- 痛み
- かゆみ
- しびれ
- 圧迫感
背景にある病気を改善することで自然と不眠症状がなくなることが期待できます
一方で、睡眠薬などを使用して不眠症状のみを緩和してしまうと、隠れている身体疾患の発見が遅れてしまう可能性もあるので、きちんと評価ことが大切です。
こころの病気
多くの精神疾患は睡眠に悪影響を及ぼし、不眠を伴うことが多いです。不眠症状があると、原因となった精神疾患を悪化させ、悪循環に陥ります。また、不眠が受診のきっかけとなり、実は精神疾患にかかっていたという場合もああります。たとえば、以下のような精神疾患が隠れていることがありますので、お悩みのときは早めに精神科や心療内科などの専門家に相談することが望ましいです。
不安障害
「きちんと起きれるか心配」「早く寝ないと寝不足になる」など、不眠に対する過度の不安や焦りのため、寝つきが悪くなります。
うつ病
夜間に何度も目覚めてしまったり、一度起きてしまうと再入眠できなくなる特徴があります。
双極性障害(躁うつ病)
躁状態のときは不眠不休で活動できると感じてしまうほど気分が高揚するときにみられます。
薬の副作用や嗜好品
薬の副作用
治療薬が不眠をきたす可能性もあります。新しく服薬し始めてから不眠が起こった場合は、まず医師や薬剤師に相談してみましょう。
- 降圧薬
- 高脂血症治療薬
- 抗ヒスタミン薬
- 気管支拡張薬
- ステロイド
- 抗うつ薬
- 抗パーキンソン病薬
- インターフェロン
嗜好品
- コーヒーや紅茶に含まれるカフェインには覚醒作用や利尿作用があり、夜間に目覚めたりトイレのために起きる回数が増えます。
- タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があり、快眠を妨げます。
- アルコールは寝つきをよくするかもしれませんが、眠りを浅くして睡眠の質を悪くします。
生活習慣の乱れ
次のような生活習慣を送っていたり、不規則な生活を続けていると体内時計がズレてしまい、睡眠リズムが崩れてしまいます。
- 交替制勤務
- 時差ボケ
- 頻繁な昼寝
- 室内にいる時間が長い
- 夜間にコンビニ外出
- 就寝前のスマホやパソコン作業
普段の習慣になっているため、自分では当たり前だと思っていたものが不眠の原因だったということもあります。専門家に相談するときには、ほんん少しの情報でも手助けになりますので気になることを話してみましょう。
診断・検査
以下の詳細な診断基準が設けられていますが、要約すると「いつも通りに寝ているつもりでも、何らかの原因により、日常生活に支障をきたしていて本人が困っている状態」であれば、不眠症であると診断できます。
睡眠障害国際分類「ICSD」では、不眠症を以下のように定義しています。
「睡眠の開始と持続、一定した睡眠時間帯、あるいは眠りの質に繰り返し障害が認められ、眠る時間や機会が適当であるにもかかわらずこうした障害が繰り返し発生して、その結果何らかの昼間の弊害がもたらされる状態」
アメリカ精神医学会が出版している、精神疾患の診断基準である「DSM-V」では、不眠症を以下のように定義しています。
「睡眠の量または質の不満に関する顕著な訴えが、「入眠困難」「睡眠維持困難」「早朝覚醒」の症状のうち一つ以上を伴っている」ことに加え、社会的、職業的、教育的、学業上などの機能低下を伴った場合に不眠症と定義づけています。すなわち、夜間の何らかの睡眠の問題に日中の機能低下が加わった状態を不眠症と定義しているわけです
ポイントとしては、睡眠時間によって決められていない点です。10時間以上の睡眠をとっていたとしても日中の活動に制限が生じていれば不眠であり、一方で3時間程度の睡眠でも元気よく快適に過ごすことができていれば診断基準に当てはまらないといえます。
また不眠症の診断では、まず睡眠時無呼吸症候群やムズムズ脚症候群、ナルコレプシーなど、ほかの疾患が原因ではないことを確認することも重要です。
前述の通り、本人の主観による評価が診断を左右しますが、客観的に評価するためにも睡眠時ポリグラフ検査(PSG)などの検査が行われることもあります。
治療
治療法は大きく分けて原因の除去、薬物療法、認知行動療法があります。
原因の除去
不規則な睡眠習慣や過度なストレス、精神疾患、身体疾患など、さまざまな原因が挙げられます。やみくもに睡眠薬を処方したとしても、根本的な原因が解決していなければ適切な治療とはいえないため、詳細な問診や適切な睡眠指導が必要です。
薬物療法
以前は依存性のあるベンゾジアゼピン受容体作動薬と呼ばれる睡眠薬が治療の主体でしたが、最近は安全性の高いメラトニン受容体作動薬などが開発され、本来備わっている睡眠のリズムに合わせた治療が推奨されています。
それでも不眠の症状が改善されない場合は、一時的にベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用することもあります。長期的に服薬していると、次第に薬に対する耐性がついてしまい、効果が得られなくなります。
そのため、定期的に不眠の程度を評価し、薬を減らすことができないか、新しい原因はないか、睡眠週間に変わりはないかなど、多角的に経過をみていくことが重要です。
認知行動療法
睡眠に対する考え方の歪みや過敏に感じているストレスに対して、その捉え方を適度に修正し、正しい知識とともに睡眠に対する考え方を補正する心理療法です。
認知行動療法だけで治療を行うこともありますが、薬物療法やリラクゼーションなどと併用して症状の改善を目指すこともできます。
ベトリッジ クリス先生
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